『無明の果て』
「涼くん、手紙ありがとう」


あの、今はもう何処にも存在しない手紙を捨てた事は言わずに、私は続けた。



「一行が大阪へ戻ったら、私もアメリカへ戻るわ。

涼くん、こんな私の事愛してくれてありがとう。」



涼は下を向いたまま



「まいったなぁ。
一行が園に言った事と、同じ事言ってる。」


涼は立ち上がり



「ここから見送ってください。
僕がそこの交差点渡りきってから、麗子さんは帰ってください。

手紙かぁ。
駄目だったかぁ。」




涼は右手を差し出し、私もまた右手を開き、


「じゃぁ。」



そう言ってゆっくり握手をした。



離しかけて、もう一度握った力は涼の生きる力そのものに思えた。


あっけないくらい足早に、涼は私の前から立ち去った。




信号が青に変わり、人の群れの中に涼を探す。



涼。

私にしてくれたエールを、あなたにしてあげたかったの。


でも、それすらさせてくれないまま行ってしまう方が、壊れそうな涼の気持ちには似合っているね。



「あっ、涼」


交差点の真ん中で、振り返らずに立ち止まり、大きく両手を振っている。


また私にエールをくれるあなたに、私はここからしか応えることは出来ないね。



涙でガラスが曇る。



「フレー フレー涼…」



涙を拭いてもう一度探した涼の姿は、 もうここからは目の届かない場所にいた。
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