『無明の果て』
「今日、結婚式だってさ。
アメリカで。」



「…そう」



「一行から連絡が来た。
園は知ってた?」



「ううん。
アメリカなんだ。

…そう…」



もう、哀しいとか辛いとか、そんな事じゃないけど、一行と並んで歩いているだろう彼女の姿を、やっぱり思い浮かべてしまうのは仕方のないことなんだと、涼の横顔に聞いてみる。



「涼は大丈夫なの?」


「よく分からないんだよ。
やっぱりまだ少しは引きずってるのかな。

こうして、ここに来てる事自体、そうなのかもしれないし。」




「涼、私はね、あの歌を歌うたびに、一行の事しか想う人はいないのよ。」




「園はまだ好きなんだ…
忘れちゃいないよね。」



「悲しい事に、毎日歌ってるからね。
でも、愛してるとか、そういうんじゃないよ。

楽園を歌う時だけ降りてくるものがあるのよ。

わかる?」


「わかるような気がする。


だけど、やっぱり、それは園にしか分からない事かもしれないよ。」



二杯目のビールは、少し苦い味がした。

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