『無明の果て』
あの時とは違う。


あの時とは違う私が、あの時とはきっと違う『楽園』に、また出会うのだ。



園は、「M」の入り口を照らしていた外灯をスポットライトに、椅子に座ってマイクを持っている。



そして、ひとりが拍手を始めると、それに合わせて拍手の音は大きく重なり、園は照れ臭そうに黙って頭を下げた。



「先輩、後ろのドアにある貼り紙見えます?」


そう言われて目を凝らすと、園がいる後ろのドア一面に



”『楽園』が聞きたい“


”園ちゃん 待ってるよ“


”楽園は見つかりましたか?“



そんな言葉がぎっしり書かれた園への手紙が、無造作に、だけどしっかりと張り付けてあった。



「閉店」と書かれたドアの向こうより、この数えきれないメッセージが、一番似合うステージになるように、ひとり、またひとり、きっとここに書き残したんだろう。



「先輩、”園“

”北原 園“って書いてますよ。」


「うん…」



拍手が終わるのを待たずに、それは夜空に響き渡った。


園の決めた生き方。


一行に出会い、『楽園』が生まれた夢。



進み続ける未来。



「先輩、みんな泣いてる。」


そんな事言ったら、泣きたくなるじゃないの。



もう、会わない方がいいよね。


声はかけずに聞いていくから。



完成されたものや、何かを極めたものだけが、心を揺さぶるんじゃない。


頑張っている人なら誰からだって、明日への意義を学べると云う事を見せてもらった気がした。



「もう一度歌って」


そんな言葉と拍手に推されて、『楽園』は また始まりを迎えた。


私達はそれをきっかけにその場所を離れ、黙って通りまで歩いた。


「先輩、あの歌前から知ってました?」


そんな風に見えたかもしれない。



「えっ、どうして?」


「いえ、なんとなくそんな気がしただけです。

私が口ずさんだだけだったのに、すぐ聞いたでしょ。

今の歌、何って。」



「知らないわ。
聞いた事があるような気がしただけよ。」
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