『無明の果て』
第二十二章  『運命』
ここには今日も真紅の薔薇の花が供えられていた。



アメリカへ来てからの僕には、やるべき仕事、経験しなくては分からない事、知っておかなければならない知識の他に、自分と向き合う事での発見や、自分の値打ちを築いて行く事への挑戦の何もかもが、後から後から押し寄せて来ている。



心地良い疲労感とまではまだ言えないけれど、やっと時間を作り僕は妻との約束の場所までひとり来た。



喜びと悲しみのぎっしり詰まった、この教会へ。



昨日届いた妻からの手紙は、まだ開けずにいる。




僕は、岩沢夫婦の墓前で手を合わせ、そして美しい木々に囲まれた階段に座り、静かに封を開けた。



妻が、岩沢からの手紙をここで開けたように。



三人で泣いたこの階段で、ひとりここにいる今を思う時、


「はじめまして」


と、あの日、口を開いた日から…


月日は、すごいスピードで駆け抜け、そしてこの三年が僕の歩む道を変化させ、いつの間にかたくさんの絆を作っていたと言う事を、家族と離れて暮らすアメリカでもしっかりと感じる事ができる。




切れかけていたと嘆いた友情が、本当は強い絆で繋がれていた事を。



傷つけてしまった恋人の心を癒したメロディに込めた、切なすぎる絆を。




もがいても、もがいても、前に進めない夢でも見ているような不安は、もうない。

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