『無明の果て』
声をかけることも、一行と擦れ違うこともないことを条件に。



その後に訪れる一行のこれからを、彼は衝撃と共に受け止めることになるだろう。


私にとっても人生の選択を考える時を迎えることになるかもしれない。



そんな事を思いながら、一行の顔を見ていた。


「なに?
どうかした?」


「えっ、何が?」


「こっちばっかり見てるよ。
イイ男でもいましたか。」


「はい、ここに。」


ずっとここに居ればいいのに。



パーティの日は少し曇り空で、それでも新しいスーツは仕事のそれとは違い、ボタンの多いお洒落な物だった。


「一行、似合ってるよ。
素敵なステージ衣装だわ。
行ってらっしゃい。」


それから少し遅れて、私も準備をし、その時間に間に合うようにシックなスーツに着替え、ヒールを履いた。



そこはビルの谷間に隠してあったような、清楚なレストランだった。


オープンカフェをそのまま解放したテラスで、写真を撮り、たくさんの人が話を弾ませている。


どのタイミングで、演奏は始まるんだろう。


「麗子さん来るって聞いてたから探してました。

一行に一緒にいるように頼まれました。

元気でしたか。」




「あっ、涼くん」




突っ張っていた糸が突然切れた。




「一行がいなくなっちゃう。」



誰かに聞いてもらいたかったんだ。



涼の胸にすがり、私は泣いた。



涼はずっと黙っていた。



背中に置かれた手に、少しだけ寄りかかっていてもいいんだよね。
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