ピエロ-私と中年男の記録-
あの日・前
その日は、いつもどおりの週末で、父も機嫌良く飲みに出かける。

「ピエロ、楽しいんか。」

靴を履きながら父が聞いてきた。

「小指のおっちゃんとな、ラムネのゲームするんよ。小指のおっちゃん、上手なんよ。」

私が言うと

「あぁ、カジさんな。母さんから聞いたよ。あだ名つけたんやなぁ。」

父は、小指のおっちゃんを知っているかのような言い方をした。私より、だいぶ昔からの知り合いのような…。



「あんまり、遅ーなるなよ。」

そう言って父は出かけた。


父以外の大人の男性と遊ぶのが、こんなに楽しみになるなんて…


こんな友情があるなんて…


父親からしたら、どう思っていたのだろう。

小学生の娘が、母親と夜遅く喫茶店に行って。

そこで知り合った中年男性と仲良くなって。


その時は、

もう。父さん、私が小指のおっちゃんと仲良くして、寂しくないんかなぁ。

と、少しつまらなく思った。

それだけだった。

「ほな、行こうかー。」

母が、妹の手を引いて来た。
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