ピエロ-私と中年男の記録-
あの日・中
ピエロに着くと既に小指のおっちゃんは来ていた。


母とママと小指のおっちゃんは楽しそうに話している。私と妹は、入り口近くの棚から一緒に漫画を選んでいた。


カランコロンカラン。


誰か来た。


私は邪魔にならないよう、どこうとした。


初めての香水の香り。良い香り。


店に入ってきたのは、初めて見る中年男性。細身で背が高く、綺麗な顔立ちだ。
私はしばらくボーツと見ていた。

その男性は数秒私を見て奥に入っていった。

「あら、来たん。いらっしゃい。びっくり。嬉しいわぁ。」

ママの声。

妹が

「今の人、顔コワイぁな。」

ヒソヒソ私に言ってきた。

気にせず、漫画を隣の部屋で妹と読んでいた。


何か違うと気付いた。

いつもみたいに、大人の会話が弾んでいない。

「静かやね。」

私は様子を見に行こうとした。

部屋を出た瞬間ドアの前で、さっきの男性とぶつかった。

男性はまた、私を見た。


息を飲んだ。

カランコロンカラン。

彼は出て行った。

時間からして、コーヒー一杯飲んだくらいだろうか。

帰るん、早いなぁ…。

母の元へ行くと、周りはまだ静かだった。

皆が何かを考えているような。

「母さん…??」

私に気付くと皆、いつもの笑顔になった。

「帰ろうか。」

母が言った。いつもの母だ。


いつもの母だけど…。

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