【中編】桜咲く季節に
「……わたくしの…名前…?」
呆然と自分の言葉を反芻するように呟く彼女。
彼女の手は震え、シャツを握る力は更に強くなる。
翔はその手を離すことなど忘れ、安心させるようにそっと手を添えた。
不安げに彷徨わせた視線は翔の視線と絡んで止まると、救いを求めるように呟いた。
「……思い…出せません……」
夕陽の赤に染まる病室が静寂に包まれる。
沈みかけた夕陽を哀しむように、昼間の暖かな風はその温もりを急速に失ってゆく。
夕風の冷たさに震えるように、窓の外の桜が揺らいだ