【中編】桜咲く季節に
フワリと漂う香水の香りがバクバクと心拍数を上げていく。
見慣れた笑顔のはずなのに、いつも以上に眩しい。
聞き慣れた声のはずなのに、何故か耳に甘く響く。
距離が近いというだけで、翔がまるで違う男性のように思えることに、さくらは戸惑いを感じていた。
「この公園の向こうにある得意先へ行ってたんだ。
ちょっと長話に付き合わされてたら飯を食い損ねちまってさ。
さっきすぐそこのコンビニで弁当を買った時、さくらに似た娘が公園に入っていくのが見えたんで、もしかしてと思って寄ったんだけど…大当たりだったな」
はい、と差し出されるおにぎりを無意識に受け取る。
指先が触れたとたん、ビリッと電流が走ったように感じて、あわてて手を引っ込めた。
訝しげに「どうした?」と問う翔に返す言葉が見つからず、半ばパニックになったさくらは、思わず先ほどまで考えていた事を口にしてしまった。
「あっ…あの…わたく…あたし…自立しようと思って…色々考えていたの」
「自立?」
翔は一瞬怪訝な表情をしたが、さくらの手の中にあるものを見て、すぐに理解したようだった。