十八番-トバチ-
「!」


「はは、まぁ知らねぇやつのほうが少ねぇわな。
あんなあからさまに、目に見えるように外を歩いてちゃ」


「え・・。もしかして、中町だけじゃないんですか?」


「おうよ。
下町だって徳町だって、おそらく全部回ってきたんじゃねぇか」


「な、なんでそんな見せびらかすみたいなこと・・・」


「さぁな。
俺の読みじゃおそらくあいつは都から来た役人共。
人籠を運ぶ飛脚も随分と訓練された奴等だったし・・」



やっぱり、あの違和感は当たってたんだ。


極悪人がこんな町に移送されてくるはずない。
しかも、都からだって?


「ま、怪しい匂いのする話だ。
こりゃ明日の新聞にでっかく乗るぞぉ?」


「・・・あの、おじさんは極悪人の顔、見たんですか」


それを聞くと彼はびっくりしてから笑った。


「ただの見張り番が、そんなことできるはずもねーよ。
形だけってことの通行手続きだけしたし、
見えたのは役人と飛脚の顔ぐらいだ」


「そうですか・・・。

あ、あの」



「ん?」



「獄って、並町のどのあたりにありますか!?」




そういえば、男はたいそうびっくりした顔をした。



少しだけ間をおいてから、ゆっくりと話し出す。





「・・おまえまさか、行く気なのか」



「えっ!?い、いえそんな。
ただちょっとした興味というか・・・。

ほ、ほらそんな極悪人なんだし、
脱獄しちゃったらやだなって・・・」



ははは、と苦笑いを浮かべてみるものの。



(どうしよう全然信じてない顔だ・・・!!)



「・・・・並町にある最も大きな建物。
それが、この町の獄だ」



「!」



「見た目はぼろいし壁ははげかけてる。
いつ脱獄されたって何の不思議もねぇわな。
あいつは極悪人とはいえ、死罪と決まったわけじゃない」


「・・・それでも、行きます」



だって、あの人のことが気になる。
そしてどうしてこの街に来たのか。


きっと、何かあるはず。



踵を返して並町のほうへと歩き出した背中に、声がかかった。




「脱獄するような奴なら、都からわざわざ人籠まで使って
運ばれて来ねぇ」


「・・ってことはつまりだ。
それだけのレベルでやばいやつ、ってことさ。

それを覚悟の上で回してきたんだったら、尚更な」



「・・シドゥ村で、何か起こるってことですか」



「さぁな。俺にはそこまで予想がつかねぇ。
けどおまえはすべて覚悟していくんだ。

これくらいは知っておいてもいい」



「・・ありがとうございます」






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