十八番-トバチ-
壱-呪月の夜-

孤高の月

貴方は謝らなかった。




「それは、命令ですか」
「いいえ。"お願い"よ」


振り向くこともせず告げられた言葉は
その台詞には程遠く、冷たかった。
今更そんなことに傷つきなどしないのに、
心の奥でどこか落胆した己がいる。



「もし、私が断ったら?」
「貴方は断らない。
それを知っているから、頼んだの」
「随分と、買い被られたものですね。私も」
「貴方を信じているからよ」


今度はまっすぐ、正面から顔を向けられた。
瞳の色に嘘はない。



まただ。
そんなことを言えば、誰でも簡単に許すとでも
思っているのだろうか。


本当は思っていないとはわかってる、
だけどこれではあまりにも、




あまりにも。




「だったら、貴方も信じてください」
「・・・」
「・・もっと、彼奴を信じてやってくださいよ!!」




こぼれた言葉は、思った以上に大きかった。
響いた声は反芻することなく沈んでいく。
真正面に向いた瞳の色は、揺れなかった。




「予定は明日。時間通りにお願いします」
「・・・」
「睦月」
「・・・・・仰せのままに」



重く下げられた頭を見て、足音が遠ざかっていく。
重くなった息と、感情を吐きだそうとして、飲み込んだ。



(これは、俺が引き受けなければならない)



そう、これは罰。
これは戒め。



永遠に消えることのない印。
未来。






「・・・観月」



貴方は謝らなかった。



俺は、振り返らなかった。


< 3 / 26 >

この作品をシェア

pagetop