十八番-トバチ-

囲われた時間

外の鳥の声が大きい。
昨日は寒かったから、窓は確かに閉めたはずだったけれど。



「おっはよう、和真!起きたか?」



「おはよ・・」



「今日は中町でお祭りがあるって忘れたのかよ。
朝7時に呼びに行くって約束も!」


ぷくうっとほんのり桃色のほほを膨らませた。
走ってきたせいか、寒いはずのこの季節も彼の体は暖かい。
僕の顔を覗き込んで、傍らにはお気に入りの愛刀、蒼炎。


彼は友達のハナビ。
名前は夏の風物詩、花火だけれど、彼の家は刀鍛冶で有名。
いつもにこにこと元気いっぱいで僕のことを気にかけてくれる。



「ごめん、起きられなくてさ。
昨日も夜遅くまで・・・」


「また本読んでたのか?好きだなー」


「ただの趣味だし。読むだけだもの」


俺は苦手だ、と呆れた風に首を振る彼に笑って、
僕は体を起こした。



「おまえは昔っから頭良いんだよ。
よくわかんないぐにゃぐにゃの文字も読めるだろ?
えっと、なんて言ったっけ?テン語?」



必死で思い出そうとして頭をひねる姿に思わず吹き出してしまう。
合ってるよ、と笑いながら布団を畳んだ。



「笑うことないだろ?
だって不思議じゃないか。習ってもないのに」


「・・まぁ」


「それともどっかで習ったって言いたいのか?」


「かもね。僕、孤児だし」


「馬鹿言うなって。
生まれたばっかの赤ん坊に、文字が覚えられてたまるかってんだ」


ごく自然と、手を挙げて半ば冗談気味に笑って見せる彼に、
和真は何も言わなかった。
ただ少しだけ、思い出すように苦く笑った。



「さ、着替えてくるよ。ちょっと待ってて」




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