十八番-トバチ-
シドゥ村の季節は変わりやすい。
四季だけでなく四季の変り目にもいくつもの温度差がある。


暮らしていくのはもちろん楽ではないが、
それを有効活用すれば様々な自然の恵みに出会えるとあって、
他との貿易がなくとも、この村は豊かでいられた。


その豊かな恵みを守護する神・イロリを崇めたたえるものとして
行われているのが、本日開かれる祭りである。


祭りとはいえ1年に1度しか開かれないため、
今から1週間ほどは皆お祭り気分である。



「今年は雪も少なくて良かったよなぁ」


「でも雪が多くないと雪像が見られないよ」


「・・おまえの場合は雪像っていうより雪饅頭の方が目当てなんだろ」


「・・え」


「おまえの食いしん坊癖はいやってほどわかってるけどな」



そういって、お互いくすくすと笑いあう。
その後も村の浮き足立つ景色を眺めながら
時間をつぶし、他愛もない話をする。


すると、視線の先から天秤につられ
人籠が走ってきた。


「珍しいな、こんな時間に」



「うん・・誰だろう?」



人籠は、文字通り人を乗せて運ばれる籠のこと。
大体は位の高い人や資産家が金を費やして乗っていることが多いが
その判断は籠の上につけられた鈴の色でわかるとされる。


赤なら資産家、
青なら怪我人といった風に。


「さてさて、何色だ・・?」


「・・っ、ハナビ・・!」


「く、黒!?」



黒色は、囚人を意味する。
それも、極悪人。



(なんでこんな辺境の街に・・・?)



目をひそめ、遠くなっていく籠を追う。
自然と身体がついてゆきそうになって、ハナビにひかれてやっと気づいた。



「おい、どこ行くんだよ和真!」


「あ、ごめんごめん!」


「あんな怪しい籠、ついていかない方がいいぞ?
たぶん収監されるのは獄のある並町だろうし、
祭り中は行かない方がいいだろうな」


中町でなくて良かったよ、とこぼすハナビの言葉など
僕は聞いておらず、ただじっと籠が向かった方向を見ていた。





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