わらって、すきっていって。

なにも答えないでいると、荻野は「いいかげん認めたらいいのに」と小さく言った。

それとほぼ同時に、バンドの演奏が始まった。あまいたまごやきのコピバンだ。演奏しているのは2年のやつららしい。


「そんなだと、本城にあんこ、とられちゃうよ?」

「……うるせーな。関係ねえよ、オレには」


とられるもなにもねえだろ。だってあんこは昔から、オレに興味なんかひとつもないんだから。

それくらい分かる。もう何年になると思ってんだよ。そのへんはもうスパッとあきらめて生きてきたんだ。

なのに、全然ほかのやつを好きになれないんだから、人生ってうまいことできてねえなって思う。


「……本城はさ、あんこのこと、好きだろ」

「まあね、十中八九そうだと思うけど」

「いいんだよ。好きどうしが付き合えばさ。そういうふうにできてんだよ、世界は」

「そうかなあ」


そう言う荻野はどうなんだろう。こいつはあんまり自分のこと話したがらないし、まあぶっちゃけそんなに興味もないから、そのあたりが謎すぎる。

好きなやつとか、いんのかな。

でも、年上の大学生とか、社会人とか、そういうやつと付き合っていそうな感じはする。勝手なイメージだ。


「霧島は損な生き方してんね」

「なにが?」

「だってあんたのほうがよっぽどあんこのこと知ってるし、ずっと傍にいるのに。バカだなあ」


うるせーよ。両想いが、付き合いの長さとかそういうので決まるなら、オレはこんなに苦労してねえっつの。
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