唯一無二のひと


ふいに豪太が頭だけ動かして、横にいる秋菜の顔をじっと見詰める。


秋菜は焦った。


なせか、ヤバイと思う。

何か話さなくちゃと思う。


秋菜はまだ子供だった。



『あのね、私のママね……』


秋菜は秘密を教えてあげる、というような目をする。



『愛人なの。不倫してるの。
奥さんのいる人とずっと付き合ってるの。最低でしょ?』


『ヘッ……』


さぞかし驚くだろうと思ったのに
豪太は明らかに面白がっていた。


『そりゃあすごいね、壮絶だわ』


セリフとは裏腹に豪太の口元は、少しニヤついていて、秋菜はそれを笑いながら指摘した。


『うっそぁ。
全然、壮絶だとか思ってないじゃーん』


『俺は朝日山の子だよ。
大人がどんだけ自分勝手な生き物かって、よく知ってるつもり』


物知り顔に豪太は言う。


彼の言葉に、秋菜は同志を見つけた気がした。


同じ学校の友達は、皆、親と普通に暮らしている。
こんな話は絶対に出来なかった。


豪太に、胸の奥底にしまいこんでいた記憶を打ち明けたい気持ちになった。





ーー聴いてくれる?
私が小学三年生のときの話なんだけど…

すごーくボロっちいアパートに住んでたの。
風が吹くと、窓ガラスがガタピシいうし、壁なんてシミだらけ。

畳もケバケバ。台所には、しょっちゅう、ゴキ…あ、言うだけでコワイ、ゴキブリが出てきてね。
今時、何時代だよ、って思うくらい汚くて古いの。

そのアパートでね。夜、私とママと一緒にお風呂に入っていたの。

こう、二人で浴槽に浸かって、お風呂気持ちいいねえ、とかのんびり言ってたのね。
そしたら!そしたらホント突然だよ。

突然、バーン!
ってお風呂の扉が開いたの。私とママ、裸なのに。



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