唯一無二のひと
豪太のおもてなし


「いいって。
なんなら、このフレンチシェフが昼メシ作ってやろうか?」


豪太がうちで料理をするのは、秋菜が具合の悪い時だけだ。

それもチャーハンとかカレーとか、お手軽なもの。


結婚前は、イベントコンパニオンをしていたというリンちゃんママは飛び切りの美人だ。

それで豪太は張り切って、そんなことを言い出したのだろう。


「よっしゃ!」


秋菜が頼むとも言ってないのに、豪太はソファーから立ち上がり、急に張り切り出した。


冷蔵庫を開けると
「マジ、何にもねえじゃん!」
と叫んだ。

パーカーを羽織り、ジーンズの尻ポケットに財布を突っ込む。



「俺、スーパーに買い出しにいってくるよ。これじゃ何にも作れねえし。
あと、包丁研ぎ、出しておけよ。
うちの包丁、尋常じゃなく切れねーし」


「包丁研ぎね…はいはい」


(なんなの、突然フットワークよくなっちゃって…)

秋菜は、豪太の張り切りぶりに少し呆れた。





フレンチシェフ、と言ったのに、豪太が作ったのは和食だった。


菜の花と錦糸卵のちらし寿司、小エビと貝柱のかき揚げ。
可愛い鞠生と柚子の皮が入った
澄まし汁。

デザートは苺とリンゴ。


さすがプロだ。


菜の花は鮮やかな緑色だし、錦糸卵も買ってきたみたいに細い。

かき揚げはサクサクふっくら。

同じほんだしを使っているのに、お澄ましの味も全然違う。


3人のママ達は大喜びだ。


「いいなあ、うちの旦那と取り替えたいよ〜!」


リンちゃんママはオーバーに身を捩っていう。


「どうぞ。いつでも大歓迎ですよ」


豪太は笑顔で如才なく答えた。


この家では、妻より夫の方が経済観念がしっかりしている。


食材の金額を皆でワリカンにすると、ピザの出前を取るよりも断然こちらの方が安くなる。


もてなす側だから、多少の持ち出しは仕方ないとしても、それを見越して、豪太は自分が作ると言い出したのだろう。



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