唯一無二のひと



せっかくの晴れの休みだというのに、豪太は朝早くから、車で出掛けてしまった。


元同僚でバーテンダーの『松木くん』とその友人たちと釣りに行く、と言って久しぶりに釣竿を持ち出した。


(もお…スーパーとドラッグストアに一緒に行って欲しかったのになあ…)


当てが外れて、秋菜は内心、面白くなかった。


オムツやトイレットペーパーなどちょっと重くてかさばるものを豪太に持ってもらおうと思っていたのに。

小さな子連れの買い物は、結構しんどい。


こないだなんか、ベビーカーの持ち手に荷物を掛けすぎて、重みで柊を乗せたままベビーカーがひっくり返ってしまい、ものすごく焦った。


けれども、友達との付き合いも大事だと分かっている。


笑顔で豪太を送り出した。


家族で出掛けるつもりだったから、ママ友の誰とも約束してなかった。


買い物は夕方、散歩がてら行くことにして、まず掃除をすることにした。


昨日はママ友達と公民館のリトミックに参加したから、忙しくて出来なかった。


秋菜は納戸から掃除機を取り出す。


「柊は、これ見ててね」


掃除を邪魔されないよう、アンパンマンのビデオを点けてやった。


大好きなアニメがはじまるとすぐに柊は画面に釘付けになり、ちょこんとテレビの前に座り込んだ。


「これでよし!」


ハタキを掛けた後、台所から順番に寝室へといつもの手順で掃除機を掛けて行く。


「あれ……?」



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