唯一無二のひと


驚いた秋菜は思わず、持っていた柊のオムツで口元を覆った。


いつかはこんな日が来るかもしれないとは思っていたけれど。

…事後報告とは。




「…それでね」


由紀恵は秋菜の顔を覗き込み、秋菜の膝に置いた右手を包み込みように握る。


「前に言ってた島田さんの家を二世帯にして一緒に住む話、真剣に考えて欲しいの。
島田さんも秋菜ちゃんには、申し訳ない事をしたと思っているのよ。
肩身の狭い思いをさせてしまって、もっと早くちゃんとしなきゃいけなかったのにって。
これから自分に出来ることがあれば、してあげたいって。

島田さんは子供がいないから、秋菜ちゃん達と本当の親子になりたいと思っているのよ。
私の勝手な想いかもしれないけど、それが出来たら本当に皆が幸せになれる気がするの…」




島田と暮らす。



それは秋菜には、難しい相談だった。


由紀恵の縋るような眼差し。

そんな目で見ないで欲しかった。


由紀恵の切なる願いを、秋菜は無言のまま、顔を背けて振り切った。






長い間、別居していた島田と前妻の離婚がようやく成立したのは、秋菜が高校三年生の冬だった。



高校卒業式の夜。


お祝いに秋菜は由紀恵と横浜中華街へ出掛けた。


由紀恵は、いつもより念入りに化粧をし、大事にしているダイヤモンドのピアスとパールのネックレスを身につけていた。


それらは由紀恵の薔薇色の頬をさらに美しく引き立てていた。

少しラメの入った黒いニットのワンピースをエレガントに着こなし、門構えからして大層立派な老舗店に秋菜を誘う。



『ママ。こんなお店いいの?
高いでしょう?』



18歳の秋菜は母の懐を心配した。


『大丈夫。特別な日だからいいのよ』


由紀恵は、そう言ってメニューを広げ、次々に料理を選びだす。

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