唯一無二のひと


「うーん。でも…」


豪太の反応が良くないので、由紀恵は助けを求めるように秋菜の方を見た。


秋菜は苛立っていた。

なぜ、島田の為に、母が犠牲にならなければならないのか。


「ダメよ!」

つい、尖った声が出た。


「島田さんて一体、何を考えているの?夫婦になった途端、腎臓下さいって何?二世帯住宅たててやるなんて言っちゃってそれで、私たちを釣ろうとしてるんじゃない?
気持ち悪いよ!」


「秋菜」


豪太が肘で秋菜の脇を突く。
言い過ぎだよ、という意味で。


中2の春、秋菜が朝日山学園に入所する原因となった由紀恵の体調不良ーーー

様々なストレスから、由紀恵は健康を害し、痛々しいほど痩せてしまった。

布団から起き出すことが困難になり、笑顔が消えた。



ママが死んでしまったらどうしようーー


夜も眠れなくて、たびたび夜、由紀恵が死ぬ夢を見て、泣きながら目覚めるーー



もうあんな思いは二度嫌だ。


< 76 / 99 >

この作品をシェア

pagetop