唯一無二のひと


ゆっくりと秋菜の身体にのしかかり、繰り返し首筋にキスをする。


(ママと園長先生の想い出話をしているのに、いきなりなんてムードがない…)


秋菜は心の中で苦笑する。

明日、仕事の豪太は始めるなら、そろそろしなくちゃ、とでも思っているのだろう。


いつもの愛撫を受けながら、豪太の肩越しに薄目を開けて暗い部屋の中を見る。



大きなシミのある天井。


端の方が剥がれて、くすんだ壁紙。


それは否が応でも、時の経過を感じさせた。







ーー秋菜の全部が欲しい……

本当に大好きだから。
大切にするから。





遠い夏の日、この部屋で、15歳の豪太は拙げに大人の世界に秋菜を誘った。


28歳の豪太は、秋菜の何もかもを知り尽くしている。


それでも、夢中で秋菜の身体を征服しようとする。

がむしゃらに。


両方の豪太を秋菜は受け止める。

硬い髪の感触を確かめながら。



豪太の指が秋菜の敏感な場所に触れた途端、電流のような快感が秋菜の身体を貫いた。


思わず、秋菜の口から大きな呻き声が漏れる。


豪太の指の動きが止まる。


「秋菜、声、でかいって……
隣に聞こえちゃうよ」


秋菜の耳元で豪太が囁く。


だって、豪太が…と言いかけて、くすっと秋菜は笑った。


清水に行った豪太は、秋菜に逢いにくるたびにこの部屋に泊まった。


その時も同じような会話を交わしていた事を思い出した。


ひとつだけ、あの頃とは違う変化があった。

豪太の耳元で囁く。



「…あのね。柊を生んでから、中の感覚がすごく深くなったの」


28歳の秋菜は、こんな大胆なことも言えるようになった。


「そうなんだ。
胸も大っきくなったし、良かったね。
全部俺のおかげだね」


豪太は秋菜の身体にゆっくりと腕を廻し、力一杯、抱き締めた。


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