寂しさの代償

今夜の私のペースは、ふだんよりも早いかもしれない。


だけど。

飲まなきゃやってられない。


一瞬でも気が緩むと、彼のことを思いだしては寂しくなる。

1人、白けさせてはいけない、と場を盛りあげるためにあおってあおって。

何杯くらい飲んだだろう。

顔がひどく熱い。


立ちあがると、足許がわずかにふらついた。



「メイク直してくるから、お代わり頼んどいて?」

「うん、わかった」



バッグを手にして飲み会のスペースから抜ける。

パンプスを履くとピンヒールのせいか、足がもつれた。

やばい。

前のめりに倒れこみかけて、とっさに手を差しだす。

派手に転ぶかも。

目をつぶったのに、衝撃はなかなか襲ってこない。


おそるおそる目を開けると、飛びこんできたのはたくましい胸板。

抱きすくめられている、と状況を把握するのに時間がかかった。

顔を上げれば、柔和な目が見おろしている。

さっき、私を見ていたさわやかな彼だった。



「大丈夫か?」

「……はい」

「嘘言え。大丈夫じゃないだろ、あんなに飲んでたくせに。送ってくから、もう帰ったほうがいい」



その夜、私は過ちを犯した。




【完】

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