お嬢様になりました。
海堂は本気だ。


窮屈な程重い空気に息が詰まりそうになる。



「あぁー……マジかよ……」



突然海堂は頭を抱える様に髪の毛をかき乱し、大きな溜息を零した。


訳が分からなくて、その姿をただ見ていた。


ッッ!?


海堂の腕が伸びてきて、私はギュッと目を瞑った。


あた、たかい……。


ゆっくり目を開けると、困った様に笑う海堂と視線が絡んだ。


頬に感じる海堂の大きな手の温もり。


頬の上を滑らかに滑る親指。



「泣くんじゃねぇよ」



初めて触れる海堂の優しさに、胸がキュッと締め付けられる。



「泣いて、ない……っ」



これ以上海堂を見ていられなくて、私は横に顔を背けた。


こいつの前で泣くなんて……。


海堂の手が頬から離れ、温もりが逃げて行く。


ホッとしてるのに、淋しい。


そう思っていると、離れた筈の温もりが次は体全体を覆った。


後頭部と腰に感じる力強さ。


私の体はスッポリと海堂の腕の中に収まってしまった。



「せめて婚約者のふりしろよ」

「いつ、迄……すればいいの?」

「さぁな、俺にもわかんねぇよ」



何それ……。



「むちゃくちゃな奴」

「うるせぇよ」



こいつのせいで泣いてるのに、こいつの温もりに安心してる。


胸に寄りかかってる。



「彼氏ができる迄なら協力してあげる」

「ならお前は一生俺の婚約者だな」



相変わらずムカつく奴。


それでも、こいつの穏やかで低い声が妙に心地良かった。





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