書架の森で
ため息をついて踵を返す。
もうこんなことはやめよう。
「そろそろ話さない?」
背後からかけられた声に、あたしは目を見開いた。
バレていたのだ。
とっさに駆けだした。
本棚の隙間に滑りこんで、息をつこうとして……硬直する。
追って来た彼が逃げ道を阻むように手をついて、つぶさにあたしを観察した。
「いつも見てただろ。声かけてこないから、こっちからかけることにした」
怖いくらい真剣な目が、あたしの両眼を貫く。
なんのためらいもなく、唇が迫ってくる。
あたしは手で阻んで、薬指のリングを見せた。
「彼氏がいるの」
「結婚してるわけじゃないだろ」
彼は目だけで笑って、額を軽くぶつけてきた。
「悪いけど」
羽のように降ってきたキスに、ぐらぐらと心が揺れた。


