ビターチョコレートに口づけを
輪から抜け出してぱたぱたと此方にやって来た雪は、私の顔をもう一度見て嬉しそうに笑った。
「……良かった、来てくれて。」
雪の言葉は、胸に少しだけチクリと刺さった。
ごめんね。心の中でそう呟いて、今度こそちゃんと笑って見せた。
「来るよ。雪の結婚式だもん。
そりゃあ、いろいろあって、まぁ複雑だけどさ。
でもさ、雪のことやっぱ好きだし。」
そうだ。
嫌な想いもするかもって知っていながら、ここに来ることを選んだのは私だ。
なのに、だめだな。私ったら。
雪を悪者みたいに思ってた。
ああ、もう。
雪のこと、お姉ちゃんのように大好きで大切なのに。
「………そっか、ありがとね。
私も、ゆうのこと、大好き。」
そう嬉しそうに笑う雪の目元がちょっとだけ光っていたから、今日来て良かったな、とあんなに嫌だった結婚式に意義を持てた。
「泣かないでよー、全く。
……結婚おめでとう。
ごめん、これはぶっちゃけ心こもってないけど、一応ね。」
そう言ったら殴られた。兄ちゃんに。
そしてぶっちゃけ過ぎだバカ。と呆れたように睨まれた。
「ふふっ、相変わらず正直ね。
結婚祝ってもらえないのはちょっと寂しいけど。」
「雪、こいつは正直なんかじゃない。
バカなんだよ、バカ。」
凄い言われようだ。
雪に言われるならまだしも、なんで私はたまたまその場にいた兄にこんな扱い受けなきゃいけないのか全く意味がわからない。
先程殴られた肩を擦りながら、雪を見ると、楽しそうにクスクスと笑っていた。
それをみて、私も笑って。
「そしてここからが本当。
幸せになってよー、お願いだから。
お姉ちゃんに幸せになってもらわないと、妹は安心できません。」
いーい?とウインクをしてみせると、…うん!!!と最上級に可愛い笑みで返事をくれた。