【完】素直になれよ。
私の肩は東堂渉の割と大きな手で支えられていて、
視線はしっかりと彼の瞳にとらわれていた。
「久留米さん…俺、我慢できないや。」
「……。」
彼に反抗する気力なんて、
今の私には全くなかったんだ。
なんの感情もこもらない目で、ただ目の前の生き物を見つめている。
そんな感覚だった。
それなのに涙だけは、しっかり流れるんだね…。
「俺を選んでよ…」
東堂渉の顔が
私の視界から消えたのもちょうどその時で、
涙で濡らされた唇に違和感を覚えたのも、ちょうどその時だった。
私の唇はピクリとも動かずに、
東堂渉の唇を受け入れていた。
おかしいよ…私。
男にキスされんのなんて、初めてなくせに…
いま考えてるのは
私の唇を強く求めてくる東堂渉のことじゃない。
織川のこと、ばっかなんだよ。