『それでも嬉しかった』

そういった彼の声色が忘れられない。
罪悪感のこもった、なのに甘美な沁みるような声。

あの時、他の何もかもが中途半端なままでも、心だけは繋がったと思っていたのに。

本当は繋がってなんかいなかったの?
本気になったのは私だけで、彼はすぐに心変わりするような程度の気持ちだったの?



「……っざけんな」


浩介くんが一歩踏み出した。と思ったら凄い速さで夏木くんに掴みかかっていく。


「きゃあっ、止めてよ。止めて、伏木っ」


匡深さんが浩介くんの苗字を呼びながら止めに入る。

あの日もあんな風だった。市民マラソンの日。
足もがくがくの夏木くんに浩介くんが殴りかかって、……そして彼女が夏木くんをかばって。

……何を間違えてしまったんだろう。
私たちはあそこで、ボタンを変え違えてしまった。


「どけよ、匡深。大体なんなんだよお前、突然この間から入ってきて」

「突然じゃないわ! あたしは前から夏木が好きだったの」

「だからって何で夏木がお前とすぐ付き合うようになったのか納得いかねぇんだよ」

「そんなの伏木に関係ない」

「お前に聞いてねぇよ。答えろ、夏木」




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