恋
夏木くんは黙ったまま、浩介くんに胸倉を掴まれている。
私は、何と言ったらいいのか分からない。
唯一つ、分かるのは……。
「……私、振られたんだよね」
ポツリと言うと、皆が一瞬しんとなった。
私の言葉にそれ程影響力があるのかと思うと少し不思議だ。
「でもまだ、ちゃんと伝えてない。私何もかも、中途半端なままなのに」
声に出すと震えてくる。目元が熱い。でも泣きたくないから必死に堪える。
「……夏木くんと話をさせてください」
一歩近づいて、匡深さんと浩介くんに言う。
浩介くんは黙ったまま彼の襟元から手を離し、匡深さんは戸惑ったように私と夏木くんを交互に見る。
「いいよ。あっち行こう」
そういったのは夏木くんで、歩き出そうとすると匡深さんが彼の袖を掴んだ。
「夏木っ、駄目」
「ちょっと、話してくるだけだから」
「でも」
「大丈夫」
彼女を宥めるようにそういう彼に胸が痛くなる。
もう夏木くんは彼女のものなんだ。
その事実が辛い。何万本もの針になって私に突き刺さってくる。