私と夏木くんは重苦しい気分で数分歩いて、少し離れた木陰に入った。一応陰になっているので皆からは見えない。

向かい合ってみたけど、でも今の気持ちを言葉にすることが出来なかった。

今更、彼に自分の気持ちを伝えてどうなるんだろう。
もう別の人のものなのに。


……ああ、夏木くんもあの時そうだったのか。

図書館で初めて夏木くんの本心に触れたとき。
あの時私は浩介くんが好きだったのに、心は意外なほど簡単に動いた。

そして私は気づいたんだ。
こんな風に、どうしようもなく惹き付けられるのが恋だって。

だけど、それを教えてくれた張本人は、私の気持ちを置いてきぼりにした。

なじったら救われるんだろうか。
そう思いながらも、彼を見ていると切ないような苦しいような感情が全身を満たしていく。


「……夏木くんは私を好きになってくれたんだと思ってた」


恨みがましい一言を口にする。
こんなこと言って相手を責めるのは性格が悪い。そう思っても止まらない。
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