「……っ」


彼は私を力強く引き寄せた。

背中に硬い書架、左に壁。それ以外は夏木くんに包まれた。
だけど彼の腕もまた硬い。筋肉質の腕だ。

戸惑っているうちに顎を持ち上げられる。長い指だ。頬だけじゃなく顔全体を包まれそう。

近づく彼の唇は触れる寸前で止まり、息だけが私の唇をくすぐった。


「……俺の気持ちも察しろよ。わざわざ近づいてくんな」


伏目がちに呟いて、彼はすぐに私を解放し早足で出口の方へ向かった。


ドクンドクンドクン。

心音が激しい。身動きも出来ない。
書架に背中を預けながら、体ごと振動してしまいそうな心臓に翻弄され続ける。


「あれ、夏木ー」

「……浩介。俺とお前は親友だよな?」


聞こえてくる、浩介くんの呑気そうな声。
対する夏木くんの声は低く神妙だった。


「はは、何改まってんだよ」


唾を飲み込むことが、こんなに大変だとは思わなかった。

ドクンドクンドクン

やまない心音が、二人の声をどんどん遠ざけていく。


どうしよう、彼氏がいるのに。
今まで感じたこの無い動悸が私を追い詰めてくる。





……心が動いてしまった。

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