「あ、源氏物語だ。私も好きなの。一緒だね」

「あ……」

「藤壺への初恋が彼の恋多き男にしたんだと思うんだよ、私」

「俺は別に……。ちら見してただけだ」


得意分野だからと一生懸命話を膨らませようとしたけど、あえなく失敗したようだ。
夏木くんは本を閉じて逃げていこうとする。


ああまただ。
なんでいつもこうなるんだろう。
私、彼を怒らせてしまったのかな。


「ごめん、私何か余計なこと言った?」

嫌われたくは無い。

だって浩介くんの親友だもの。ちゃんと仲良くしなきゃ。

思わず彼の腕を掴んで引き留める。


「離せって」

「だって。なんで怒ってるの?」

「怒ってんじゃねーよ」


彼は嫌そうな顔で私を一度睨んだ。

そしてその次の瞬間―――――

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