恋
「芽衣子っ」
彼に呼ばれた私の名前が、最後の記憶。
次に目を覚ましたのは、大学の医務局だった。
窓から差し込む光はオレンジ色で、もう黄昏の時間なんだって分かる。
「目、覚めたか?」
声の方を向くと、夏木くんがベッドに肘をついてこっちを見ていた。
「……私」
「倒れたんだよ。興奮し過ぎたのかもな。先生は貧血だって言ってたけど。傷の方は止血してもらった。縫うほどじゃないらしいけど、深いから傷は残るかもって」
「そう」
「ごめん」
夏木くんが目を伏せた。
何も謝ることなんて無いのに。
「俺がはっきりしないから、芽衣子まで傷付けた」
「……匡深さんは?」
「芽衣子が怪我して、驚いたみたいだ。すっかり大人しくなって。今は浩介が送って行ってくれてる」
「そう」
「起きれるか? 医局ももう本当は閉めなきゃいけない時間なんだって」
「うん」
上半身を起こすと、少し頭が回る。
頭を押さえると夏木くんが心配そうに手を伸ばしてきた。
「ダメなら無理すんな。先生も起きるまで待つって言ってくれてたから」
そうか。だったら少し休もう。
安心して笑ったときにまじまじと夏木くんの顔を見ると、頬が少し腫れてる。
どうして……と思って自分が平手打ちをしたことを思い出した。