ドメスティック・エマージェンシー
「江里子、どうして出て行ったんだ?」

目の前には何週間ぶりに見る父親の目があった。
怖くて目を逸らす。

ポケットに入った携帯がライトを点滅させている。
葵からだろう、と推測出来る。

隙を見て、葵に事情を説明したのだ。

「江里子!」

再び、頬に激痛が走った。
今日何度目かも分からないくらい叩かれた頬は筋肉痛のように震え、悲鳴を上げた。

私はひたすら黙った。

騙されない。
この人たちは私を利用することしか考えていない。
どうして、と理由を聞く時点で可笑しいのだ。
分かってないのだ。
ならば、何回も何回も繰り返すに違いなかった。






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