ドメスティック・エマージェンシー
両親は仕事でいない。
それでも私は、跡が残らないようにこっそり抜け出した。

久々に空の真下に立つと、心地よかった。
異常者である私を拒むことのない空は、何となく葵に似ている。

その横に偉そうに居座る太陽は、だけど私の背中を押してくれた。

「行ってきます」

微笑むと、太陽が微笑み返してくれた気がした。


葵の家に着くと、真っ先に植木鉢の裏を覗き込んだ。
葵の言う通り、鍵は私を待ちわびていたようだ。

手に取り、鍵穴に差し込み恐る恐る家に入る。
もう他人の家と化してしまった家に入るのは躊躇われた。

しかし、緊張を解すと言われているラベンダーの香りが「おかえり」と私を招き入れてくれた。








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