ドメスティック・エマージェンシー
ゼロの声が子守歌のように聞こえる。
ソッと耳を傾け、歌声を聞き流していく。

「昔言うても幼児期やけど。そっから大阪に移ったんや。……俺だけ」

私が避けた山となった服に凭れ、記憶をなぞっていく。
ゼロは私を見ながら、遠くを見ていた。

「大阪にある孤児院に預けられたんや」

ゼロの瞳がギラリと光を放つ。
憎悪を宿し、思い出しているだろうその時の苦労を。
しかし、一瞬寂しさを宿した。
きっと幾度の夜を泣いて過ごしたのを思い出したのかもしれない。

「高校生になって、孤児院を抜けてきた。何回も何回も説得を繰り返したで?みんな引き止めるさかいな。でも、俺は来たんや。俺は、ここに……当時あいつらが住んでたここに来たんや。……もぬけの空やったけど」

虚空を見つめ、孤独感が漏れた。
私はおぼろげに彼を見つめる。

定かではない視界には彼が泣いて見えた。







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