ドメスティック・エマージェンシー
……葵。
葵の端正な顔つきと、細過ぎる体を脳裏に描く。
鮮明に葵は私を呼んでいる。
直視したくなくて、布団にうつ伏せた。

私は葵と別れたことになるのだろう。

その現実は思ったよりも軽く小さな喪失感だけが懐へ入ってくる。
なのに、次第に霧のように寂しさは広がっていった。

――痛い。

顔を上げ、棚を探すがここが私の部屋じゃないことを思い知らされる。

そうだ、ここはゼロの部屋。
私のカッターはここにはない。
私の痛みを引き受けてくれる存在はいない。

ぎゅっと心を握り締めた。
潰れるくらいに、いっそ苦しさを感じる心を無くすくらいに。

それでも、痛い。

静かに嗚咽が漏れる。
ゼロに睡眠術をかけたかった。
せめて、私が泣いている間は寝ていて欲しいから。








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