ドメスティック・エマージェンシー
懲りずに見つめていると、ゼロは真っ赤な唇を曲げた。
苦々しいものを噛んでしまったように、歯を食いしばる。

「そんな聞きたいんか」

「あなたが見ろって言ったのよ、これからずっと一緒なんだから隠す必要もないでしょう。……その仮面も」

仮面の端に触れる。
私から外さないことを知ってか、ゼロは微動だにしなかった。
しかし、今や彼の表情を捉えるのに必要となった唇から舌を覗かせた。

「お前の言う通りや。やけど、お前が逃げ出さんという保証はない。……人殺しを目の当たりにしてな。だから、仮面は外すことは出来へん」

口調は出来るだけ優しくしてくれているのか、だがゼロの微かに震えた唇が全力で私を拒否して、恐れているように見えた。

そう、と私は短い返事を返してゼロから視線を外し窓へ目をやった。

カーテンもないのに、日のあたりが悪いこの部屋をまばらに太陽が照らしている。






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