ドメスティック・エマージェンシー
やばい、この状況は……不審者に間違えられているに違いない。

「不法侵入ですか。警察呼びますよ」

大きな目を細くして睨まれる。
大人しそうな子だが、頭は良さそう。
下手に抵抗したら本当に呼ばれるかもしれない。

グルッと脳内を回転させる。

「ここに、知り合いがいるの」

……この子に、嘘は無駄だ。
そう思い、本当のことを言うと少年は眉を微かに動かした。

「いたはずなの。ゆうま、って言うんだけど……」

恐る恐る彼にゼロの本名を言うと思いの外的中したようだ。
目を見開き、私に威圧的に近付いてきた。

何だか怒っているように見える。
怖じ気づいたが、これは何かのチャンスかもしれないと思いジッと身構える。

少年が私の肩を掴み、乱暴に揺らした。

「あんた、ゆう兄の何だ」

メガネの奥にある瞳が微かに潤んでいる。
私にとって彼は重要人物になったが、どうやら彼も同じらしかった。






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