ドメスティック・エマージェンシー
「……わかった」

父が重たいため息を吐いた。
私は顔をようやく上げ、母が驚いてから不安そうに父を見つめた。

その中で、父はニコリと作り笑いを浮かべた。
途端に悪寒が走る。

「働こう。有馬に、リハビリさせようと思ってるんだ」

「えっ」

息を呑む。 
父の言葉を飲み込み、理解しようと試みる。
しかし、やはり理解出来ずにいると「お金がいるだろう」と父が付け足した。

「なるほど!あなた、それ良いわね!有馬がまた野球出来るようになるわっ!」

母が絶賛する提案は、ようやく理解出来た私を粉々に砕け散らせた。

……私は、あなた達にとって何なのだろう?

日課になった疑問が危うく声になりそうだった。
喉元で引っかかり、代わりに嗚咽が漏れる。

止めたいのに止められない。

絶望した。
この人達は、私を都合の良い道具としか見ていない。
分かっていたのに思い知らされる。

愛されていない。

どうしたの、と母が声をかけてきたが頭の中を一瞬掠めただけだった。

私は駆け出した。
椅子が落ちるように倒れ、ドアが壊れそうなくらい大きく開けて家を出た。

雨が降っている。
今の私に共鳴するように、はたまた私とスピードを対抗するように素早く激しく降っていた。



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