ドメスティック・エマージェンシー
毛穴を通して脈に腸に内臓に、雨が浸透していく。
体温は冷たいのに、私の中は温かいことを知る。
私は生きている。

道具なんかじゃない。
私は、一人の人間なのだ。

思考を止めるように、ぬかるんだ斜面が私の足下をすくった。

濡れた土が体を受け止める。
このまま奈落に堕ちてしまうのではないか、と本気で思ったから安心した。
受け止めてくれた地面のお陰でじわじわと痛みが回ってくる。

痛い。

体中の痛みは私の心の痛みを引き受けてはくれない。
それどころか一緒に痛みを訴え出す。

痛い。

膝と肘から血が滲み出す。
雨が私を逃がさない。
息すらも、捕らえようとしてくる。

苦しい。
辛い。
消えたい。

私は、要らないだろう……







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