ドメスティック・エマージェンシー
「第一遠いだろ。それに急に何なんだって怪しまれるし……」

一理ある。
有馬が成長するにつれ、私たち家族は祖母の家には行かなくなった。
両親が有馬に付きっ切りになったからだ。

祖母の家へ行くには時間がかかる。
無駄な時間、と切り捨てて両親は有馬に練習をさせるようになった。

だが、怪しまれるとは何だろう。

「出て行ったこと、言わないつもり?」

「言ったとこで追い出されるだろ」

私はため息をついた。

祖母はそんな人じゃない。
有馬は何も見ていない。
それに、このまま一人で生きていくつもりなのか。
中学生が一人で生きていける訳がない。
特別だって何だって、私たちは子どもなのだ。

私たちは親に逆らっても、無力なただの子どもなのだ。

思いを込めて有馬の腕を握り締める。
真っ直ぐに見据えると、有馬の瞳が揺れているのに気付いた。

……そうか。
行きたくない本当の理由は、不安なのだ。
拒絶されないか、受け入れて貰えるのか。
[存在価値]が無くなった自分が、行っていいのか。

有馬が目で訴えかけてくる。
苦しみが光線のように私を貫く。
私は、きっと自分と重ねているのだろう。

痛かった。

息を飲み込み、抱き締めるように言葉を渡した。

「大丈夫。行っておいで」







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