まほろば【現代編】
「リュウ君、今のうちに」

紗綾が微笑みながら手を伸ばしてきた。

確かに、この機を逃したらもう戻るチャンスはないかもしれない。

無意識で手を伸ばして三人のほうへと足を踏み出した。

その瞬間。

「危ない!」

紗綾の叫ぶ声とグイッと手を引かれる感覚、そして俺の体と入れ替えるように紗綾の体が前へ飛び出してきていた。

突然の出来事に対処できないままかなりの勢いでクロキの体に体当たりするような形になり、そのまま泉の中央の月の上へと倒れこんでいった。

ただ、目だけはしっかりと紗綾のことを捉えている。

さっきまで俺がいた場所に紗綾が立っている。

異様だったのは、その足元から鈍く銀色に輝く剣が延びていて紗綾の体を刺し貫いていることだった。

頭が理解することを拒絶している。
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