若き店主と囚われの薔薇


『上手く』愛してやれる、なんて。

そんな人間は、きっといない。

…誰もが、人を愛するのに迷い、戸惑い、苦しむ。

クエイトは、当たり前の問題にぶつかっただけだ。

…そしてそれを、諦めてしまっただけだ。


彼も、わかっているはずだ。

それでも、頼まずにはいられないのだろう。

ロジンカがこの先、自分より良い主人に巡り会えることを。

…『上手く』愛してやれない自分の代わりに、誰かが彼女を愛してやることを。



「………ビストール様」


呼ぶと、彼はゆっくりと顔を上げた。


「…この娘がこれからどうするかは、私が決めることではありません」


俺の言葉に、彼は眉を下げる。

静かに、「ああ」と返事をした。

けれど、次に「ですが」と言った俺を、彼は驚いたように見てきた。



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