若き店主と囚われの薔薇


「…あなたが名付けた、石の名のように。この娘はこれから、自分で運命を切り開き、進んでいくと思います」


クエイトの目が、見開かれる。


…ロジンカは、『届け屋になる』とはっきり言った。

きっとこのまま、俺の店にとどまっている気はないのだろう。

そういう、女だ。

こんな狭い場所で生涯を終えるような、そんな女じゃない、ロジンカは。


俺は、いつかにロジンカへ言ったように、クエイトを見つめて言った。


「私は、見ているだけです」


…奴隷として、この薄暗い世界を生きる、彼らを。

強く、強く生きようとする、彼女らを。


「…私が何かしなくとも、きっと。ロジンカは自分で、幸せを掴みますよ」


愛した人にもらった、名前を持って。

彼女はきっと、強く生きて行く。

まだ見ぬ誰かと出会い、笑い、泣き、その人のために歌をうたうだろう。


……少なくとも俺は、そう信じている。



< 138 / 172 >

この作品をシェア

pagetop