若き店主と囚われの薔薇


クエイトは俺の言葉に、しばらく言葉を失っていた。

けれどロジンカを見て、何かを察したのか、ふわりと気の抜けた笑みを浮かべた。


「……そう、ですか。この子はもう、歩き出そうとしているのですね。自分の足で」


…ああ。

彼女は先程、一歩を踏み出したばかりだ。

『ロジンカ』という名前のままでいることを、自分の意志で決めたのだから。


そしてクエイトは、ロジンカの顔を見た。

その、まだあどけなさの残る寝顔に、彼は涙の浮かんだ目を細めて。



「……さよなら、ロジンカ」



ひとつ。

愛しさのつまった別れの言葉を残して、去っていった。










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