若き店主と囚われの薔薇


「嬉しいからだ。君はもう、ひとりで歩くことができる。僕がいなくても」


…待って。

そう言う前に、彼は私の目の前から消えていく。

スゥ、と、どんどん透明になっていく。


どうして、消えてしまうの。

あなたがいなくては、私は生きていけないのに。


「いいや、君は生きていける。強く、強く。君の薔薇は、まだ咲いている。確かに、そこに」


目を見開く私の唇に、彼はそっと、口づけを落とした。

…儚い、触れ合い。

その瞬間、私の中に何かがじわりと広がって、やがて馴染んでいく。

彼が消えていくとともに、辺りの空間はまた白く戻った。

…私の周りには、もう何もないけれど。


不思議と、不安な気持ちは消えていた。







「おはよう、ロジンカちゃん」


朝。

目が覚めて、いちばんに視界に飛び込んできたのは、もう見慣れたテンの顔だった。



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