若き店主と囚われの薔薇
「私に命令しないで!それができるのは、この世界でクエイト様、ただひとりよ!」
彼女は、その涙で赤くなった目で、俺を睨みつけた。
俺はひとつため息を付き、「そんなことを言ってる場合じゃない」と言う。
「…もう、閉店の時間だ。早く店をたたみたい。さっさとしろ」
「閉店って…なによそれ!ここは何!?私はこれからどうなるの!」
少女の言葉に、俺は少し驚いた。
…ここがどこだか、知らないのか?
貧困で治安の悪い村や街によくある、薄汚いテント。
その正体は、奴隷を売買する『奴隷屋』だ。
生活に困った母親が子供を売りにきたり、金を持て余した貴族が労働をさせるために買ったりする。
もちろん、その商品となるのは人間。
子供から大人まで様々な、『人権を奪われた』人間だ。
俺が営むこの奴隷屋では、主に子供を扱う。
親に捨てられたり、諸事情で一族ごと滅ぼされ、行き場のなくなった子供だ。
俺はまたため息を付きたくなる衝動を抑え、テントのなかを見回した。
奴隷たちが寝泊まりするための、簡素で大きな布団が一枚。
それと、店主である俺が奴隷たちを監視するための、椅子と机。