東京
二。
春休みを終えたら

あっという間に初夏はやって来た。

『また雨か。』


あゆみは雨が嫌いだ。

靴が濡れるのが、最高に嫌いなんだそうだ。

『ズボンの裾とか濡れるとさぁ。もうやってらんないよねぇ。』


教室の窓で傘をバタバタさせて、ため息をついた。


「梅雨が来ないと夏困るんだよ。」


『水不足。』


「わかってんじゃん。」


『そろそろ紗耶香不足なんじゃない?』


「‥。」


不覚にも口許が緩み、急いで手で口を覆った。


『…バカ?』


「真悟不足?」


『違います。』


タイミングよく教室の扉が開き、話題の真悟が現れる。

「まだいたの?」


ドラマみたいに登場しやがっるこいつ。
そしてあゆみははまっていくのでした。チャンチャン。

こいつは尊敬するくらいにあゆみの心をわし掴むのがうまいのだ。


「もう帰るってさ。」

「ばっちは?」

「帰るよ。」

「行こうよ。」

「行くか。あゆみ?」

『行く。行く。ます。』

真悟があゆみの頭を小突いた。
「噛みすぎ。」


さあて明日の話題は今日の下校についてかな。


「じゃね。」

「あっ!ばっちがんばれよ」
真悟がにやけて言う。


『あっ!がんばれっ!』

「がんばんねえよ!」

今晩紗耶香さんとライブに行く約束をした俺は、結局ものすごくがんばる。

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