東京
たどり着いてまず
思わず胸ぐらを掴んだ。


「…ばっち?」

落ち着いて話す予定だった。
「今俺っちであゆみが泣いてた」


真悟は黙ったまま
少しも動かない。

「お前自分が何したかわかんないら?」

「…わからない。
わからないけど
知りたい。」

冷静でいれるわけがなかった。

「あゆみは!お前の子供をおろしたぞ!」

声が大きくなったけど
東海道線が今日も
声をかき消した。


「…今、何て?」

「あゆみはお前の子供をおろしたんだ!
だけんお前のことちっとも恨んでないさ!」

真悟の目が、涙で滲む。

「嘘だと思うか?」

「わかる。…嘘じゃない。」

真悟は右手で自分の顔を覆った。

「その時の行為に
気持ちが少しもなかったならあゆみの前では聞かなかったことにして、お前一生悩め。」


大の男が二人、涙を流して胸ぐらをつかむ姿は異様だろうか。
でもそんなことは関係なかった。胸ぐらを掴んだ右手に力が入る。

「本当に同情抜きで、あゆみを思ってやれるなら。
自分がどうするべきかを考えろ!
俺には聞いてやることしかできないんだよ!」

俺の右手が緩むと同時に
真悟は目の前に崩れ落ちた。

俺に握られていたTシャツの襟は
ぐしゃぐしゃになり汗が滲んでいる。

「バカなことを…したと思う。」

泣きじゃくる真悟を見るのは初めてだった。

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