東京


あゆみの住む駅につき
住所の方へ走る。


分からないはずの初めての町。
楽しそうに帰り道の話をするあゆみの言葉を思い出しながら進む。

まっすぐまっすぐ行くだけだよ?でね、小さい酒屋さんを曲がると雑木林があるの。そのあとバーンて雑木林ぬけてぇ…

と言ったところで俺は、うるせぇな眠れないだろ
と話をぶったぎった。

雑木林にたどり着けたのに、その先が分からない。

「くそ。」

住所を知ってたって、土地勘がないと分からないじゃないか。

「くそっ!」

悔しさで、カバンを地面に叩きつけると
手帳と財布がスコンッと飛び出した。
何だよ、何なんだよ。と、苛立ちながら中身を拾う。

雑木林の隙間から
風がブオッ−と吹き抜ける。

手帳の中からは、ペタンコにつぶれたマイルドセブンが1本姿を見せた。

「いいなぁ何かタバコってかっけぇ。」

出会った春に、煙草を吸うばっちにそう言った。

「俺も吸っちゃおっかなぁ。はは。」
ザワザワっ…
木々揺れる。

やめとけよ。何か、らしくないよ。

真悟は真悟に似合うことしてよ。

「なにそれ」と聞くと、ばっちは
んーストローでいいんじゃない?とケタケタ笑った。

何だよーとすねた俺に、お守りなっと言ってくれた1本。

ありがとう。
本当に守ってくれてたんだな。

< 87 / 97 >

この作品をシェア

pagetop