愛罪
「そ、らくん…まさか、それは…」
ひとり状況を掴めずにきょろきょろと僕と葉月さんを見る瑠海をおいてけぼりにして、葉月さんは声を震わせる。
表情は見ていないけれど、きっと動揺と不安と歓喜の混ざった複雑なものだろう。
僕だって、同じだ。
幼少期に金庫に入れたガラクタたち。
それでも宝物を発見した瞬間のように胸が躍って、もっと楽しく金庫の中身を瑠海と漁れる気がしていた。
真っ赤なミニカーや、僕の落書きで頬の汚れたチョコレート色のテディベア、ヒーロー物のミニフィギュアに、祖父から貰ったいくつかのビー玉。
それらを背景に、白い封筒が一枚。
宛名はーー『そらへ』。
黄ばみもなく新しいそれは、紛れもなくここ最近のもので。
筆圧の薄い小さな文字は、紛れもなく我が母親のもの。
時間をかけずとも、わかった。
母親が自ら命を経つ前に、この金庫に遺書を遺したのだと。
「瑠海。それ、お兄ちゃんに貸して」
何だろうと興味深そうに封筒をあらゆる角度から見ていた瑠海を膝の上に抱いて、その手から封筒を受け取る。
封を切る前にちらりと葉月さんを見ると、彼女は薄く眉根を寄せながらも微笑を浮かべて頷いてくれた。
僕も小さく頷き返し、割れ物に触れるかのようにそっと、数枚が四つ折りになって重なった白い便箋を封筒から抜いた。